【元裁判官が解説】「どこからが不倫や浮気になる?」「風俗は不貞行為になるの?」~不貞慰謝料が認められる場合と証拠の収集方法について~

目次
はじめに
既婚者と不倫・浮気をすれば慰謝料を請求される可能性があることや、配偶者の不倫・浮気を発見したら、不倫相手に慰謝料を請求することができることは皆さんご存じだと思います。では、どこからが不倫や浮気なのかと聞かれたらどうでしょう。既婚者が異性と食事に行ったり、キスをしたりしただけでも不倫になるのでしょうか。また、風俗は不倫と評価されるのでしょうか。こういった点について疑問を持たれたことがある方もいるのではないかと思います。
今回は、このような疑問について、元裁判官の視点から、わかりやすくかつ詳しく説明します。
そもそも不倫・浮気とは?
実は、不倫や浮気は、法律用語ではなく、必ずしも明確な定義があるわけでもありません。一般的には、不倫は、既婚者が、配偶者以外と恋愛関係や肉体関係をもつことを指し、浮気は、既婚者に限定せず、いわゆるカップルが、交際相手以外と恋愛関係や肉体関係を持つ場合まで広く含むことが多いのではないかと思います。
法律上は、「不貞行為」と呼ばれている
法律上は、一般的に、慰謝料請求の対象となるのは「不貞行為」です。不貞行為とは、既婚者が、自由な意思に基づいて、配偶者以外の者と性的関係を結ぶことです。そして、ここでいう「性的関係」とは、性交または性交類似行為を意味します。
なお、「自由な意思に基づく」場合に限定されますので、例えば、性被害にあったような場合は、自己の自由な意思によるものではないため、性被害を受けた側は、基本的に不貞行為を理由とする損害賠償の責任を負いません。
婚約者の場合には不貞行為にならないのか
前述のとおり、不貞行為は、既婚者であることが前提となっています。そのため、婚約関係にとどまる場合は、不貞行為を直接の原因とする慰謝料の請求をすることはできません。しかしながら、婚約関係にあるにもかかわらず、婚約者以外の第三者と性的関係を持った結果、婚約関係が解消した場合には、婚約関係が正当な理由なく解消されたことを理由として、慰謝料の請求をすることができます。
どのような行為が不貞行為にあたるのか
さきほど、不貞行為に該当するのは、性交または性交類似行為であると述べました。挿入行為があった場合に不貞行為にあたることについては違和感がないと思いますが、挿入を伴わなかった場合はどうでしょうか。「挿入がなかったら大丈夫ですよね」と聞かれることがよくありますが、必ずしもそうではありません。以下の表のように、手淫、口淫、裸で抱き合う行為、前戯などの性交類似行為と呼ばれる行為を行った場合には、不貞行為に該当する可能性があります。一方で、キスをする、ハグをする、手をつなぐ、食事に出かける、こういった行為のみでは、基本的には不貞行為にはあたりません。
性交類似行為と判断される可能性が高いもの | 性交類似行為と判断される可能性が低いもの |
手淫 | キス |
口淫 | ハグ |
裸で抱き合う行為 | 手をつなぐ |
前戯 | 食事に出かける |
どのような証拠があれば不貞行為を立証することができるのか
裁判で損害賠償を請求するには、原告において、不貞行為があったことを立証する必要があります。不貞行為を行っている最中の写真や動画があれば決定的な証拠となりますが、こういった証拠は存在しないケースの方が多いです。では、実際には、どのような証拠から立証していくのでしょうか。
この点については、上記のような決定的な写真や動画がない場合であっても、ラブホテルに出入りする際の写真や動画、二人きりで旅行に行っている事実、不貞行為があったことをにおわせるメッセージのやり取りなどから、不貞行為と認定がされることがあります。
上記のような証拠があると、真実は性行為又は性交類似行為がなかったとしても、これらの行為がなかったことを裏付ける証拠等が存在しない場合には、裁判上は、不貞行為があったと認定されることが多いように思います。
なお、証拠の収集についても注意が必要です。違法な手段によって証拠を収集した場合には、証拠として採用されない可能性があるほか、犯罪にもなりかねません。少し極端な例ですが、例えば、人の家に入り込んで盗聴器を設置したりしてしまうと、証拠として採用してもらえない可能性があるのはもちろんのこと、住居侵入罪に問われてしまう可能性もあります。
風俗は不貞行為にあたるのか
「風俗はセーフですか」と聞かれることがよくあります。結論から申し上げると、風俗店で性行為に及んだ場合も不貞行為に該当する可能性が高いです。前述のとおり、不貞行為とは、性行為又は性交類似行為を指すところ、風俗店での行為の内容が、性行為又は性交類似行為に該当すれば、不貞行為に該当する可能性が高いと考えられます。福岡地判平成27年12月22日判決では、被告(夫)がいわゆるデリバリーヘルスの女性従業員から口淫等の性的サービスを受けたことが「不貞行為」と表現され、性器の挿入の有無は、結論を左右するものではないと判断されています。この裁判例からは、①風俗店での性行為も不貞行為に当たるという前提で考えられていること、②性交類似行為も不貞行為に該当すると考えられていることの二つを読み取ることができると思います。
しかしながら、仮に、不貞行為に該当するとしても、例えば、風俗店の従業員に対して損害賠償請求をすることができるかというと、これは請求が認められないケースが多いと考えられます。不法行為に基づいて損賠賠償請求をするには、原告において、被告が相手は既婚者であると知っていたこと、又は知ることができたことを立証する必要があります。風俗店では、お客さんが既婚者かどうかを確認することは必ずしも予定されていないと考えられますので、原告において、既婚者であると知っていたこと、または知ることができたと立証することは困難であると考えられます。また、風俗店において、対価を受け取って性的サービスを提供しているだけの関係の場合、従業員は、お客さんが既婚者であることを認識していたとしても、基本的には、そのことをもってサービスの提供を拒否することはできないと考えられます。そうだとすると、風俗店の従業員からすると、避けることができなかった結果という評価をすることもできるかもしれません。
これらの理由から、風俗店で働いている従業員に対する損害賠償請求は難しいと考えられます。前述の福岡地判の裁判例も、妻の夫に対する損害賠償を認めたものであり、デリバリーヘルスの女性従業員に対する損害賠償が問題となった事件ではありません。
一方で、個人的に連絡先を交換し、業務外で会って不貞行為に及んだような場合には、両者は親密な関係になっており、既婚者であることを知っていた、又は知ることができたといえる場合が多いと思われますし、業務外で会うことは避けることができたといえるので、こういった場合には損害賠償請求が認められることが多いと思います。
まとめ
不貞慰謝料を請求する事件の場合、どのような場合に不貞行為が成立するのか、誰に対してどのような請求をすることができるのかなど、判断が難しいことも少なくありません。また、不貞行為を基礎づける証拠の収集についても、どのような証拠が必要なのか、どのような証拠の収集方法は避けるべきなのかといった点についても専門的な判断が必要となります。
不倫慰謝料を請求したい場合、不倫慰謝料を請求された場合には、早めに弁護士に相談することが大切です。
監修者
藤本 拓大(ふじもと たくひろ)
弁護士(大阪弁護士会所属)
弁護士法人リット法律事務所 共同代表
中央大学法学部卒業。司法試験予備試験に合格後、司法研修所(第71期)を修了。2019年に裁判官に任官し、横浜地方裁判所(医療集中部)、松江地方裁判所(刑事・少年部)、東京地方裁判所(民事執行センター)にて勤務。
在任中、アメリカ・ヴァンダービルト大学ロースクールにて客員研究員としても活動。
2025年4月に弁護士登録し、現職。医療部での勤務経験も活かし、医療事件、介護事件等に注力している。
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