【元少年事件担当裁判官が解説】 子供が犯罪を犯してしまったら前科はつくの?少年事件と刑事事件の違いは?

はじめに
子供が犯罪行為を「犯した」というご両親から、「子供に前科がついてしまうのか?」「少年事件って刑事事件と違うのですか」といった質問をよくいただきます。
少年事件と刑事事件は、一見似ているようにも見えますが、目的も手続も大きく異なります。
本コラムでは、家庭裁判所で少年事件を担当していた元裁判官の立場から、その違いをわかりやすく解説いたします。
少年事件とは?
20歳未満の人(少年)が犯罪を「犯した」場合、少年法という法律が適用されます。少年法は、少年が罪を犯した場合の手続きや処遇について定めています。
少年法の目的は、少年を「処罰」することではありません。少年が犯罪を「犯した」原因を取り除き、将来同じような犯罪に手を染めることがないように「教育」することに主たる目的があります。
「犯した」犯罪行為の度合いに応じて、「責任」を取ってもらう(「処罰」を受けさせる)ことを目的とする刑事事件とは、目的が違うということになります。
このような目的の違いから、少年法では、少年事件について、手続きや処遇(刑事事件における刑罰に相当するもの)について、特殊な定めがされています。また、成人の刑事事件は、「地方」裁判所で処理されますが、少年事件は、「家庭」裁判所で処理されます。
以下の項目で詳細に記載しますが、少年事件、刑事事件の主な違いを表でまとめると以下のとおりです。
少年事件 |
刑事事件 | |
目的 |
少年の健全育成、再非行の防止、更生を促すことを重視 |
犯罪の責任追及、処罰、再犯防止 |
主に適用される法律 |
少年法 |
刑事訴訟法など |
対象年齢 |
20歳未満 |
20歳以上 |
審理を行う機関 |
家庭裁判所(審判手続) |
地方裁判所・簡易裁判所(公判手続) |
処分の内容 |
保護処分(保護観察、児童自立支援施設送致、少年院送致など) |
刑罰(死刑、無期懲役、拘禁刑(これまでの懲役、禁固に相当するもの)、罰金など |
前科の有無 |
保護処分歴は「前科」にはならない |
有罪判決が確定すれば「前科」がつく |
審理の公開/非公開 |
原則:非公開 |
原則:公開 |
少年事件における処遇
少年が罪を犯した場合に受ける処分(保護処分)は、大きく、①保護観察、②児童自立支援施設などへの送致、③少年院への送致の3つに分類されます。ここで注意していただきたいことは、これらの処分はいずれも「刑罰」ではありませんので、処分を受けたとしても、「前科」はつかないということです。「前科」とは、一般的には、刑法その他の刑罰法令に違反して処罰され、有罪の判決が確定した事実のことをいいます。この点については勘違いされているケースも多いです。
1 保護観察
保護観察とは、少年が社会生活を送りながら、定期的な指導と支援を受ける制度です。家庭に戻ったうえで、保護観察官や協力者(保護司)からの指導や助言を受けつつ、社会生活を維持していきます。つまり、「刑務所のように収容する」のではなく、「地域社会の中で更生を図る」方法です。
2 少年院への送致
少年院送致とは、家庭裁判所が、保護処分として少年を少年院に収容することを命じる措置です。少年院は、法務省所管の矯正施設であり、教育・生活訓練・職業指導などを通じて、少年の改善更生を目指します。少年事件の中でも、最も厳格な処分に位置付けられています。
3 児童自立支援施設、児童養護施設への送致
児童自立支援施設、児童養護施設への送致への送致とは、福祉的な支援を目的とした児童福祉施設へ少年を送ることです。
少年院が法務省所管の「矯正施設」であるのに対し、児童自立支援施設や児童養護施設は、福祉的な支援を目的とした「児童福祉施設」という点に大きな違いがあります。家庭に戻すには保護者の監護力に問題があり、かつ少年院のような矯正的環境までは必要でない場合に、児童福祉施設への送致が選択されるケースが多いです。
例外的な刑事処分
少年事件では、「処罰」が科せられない、そのため「前科」はつかないと記載しました。もっとも、例外的に、「処罰」が科せられるケースがあります。ニュースなどで、「少年が懲役○○年に処された」と聞いたこともあるのではないでしょうか。
犯罪行為の内容が極めて悪質であったり、結果が重大だったりといった理由で、少年院送致などの処分(前科をつけさせない処分)では不相当であると判断されたケースでは、刑事罰が科される可能性があります。この場合は、「前科」もつくことになります。
もっとも、刑事罰が科されるケースは事件全体の数からすると極めて少なく、例えば万引きをしたケースで刑事処分が科されることはまず考えられません。殺人等の凶悪犯罪が典型的な例として挙げられます。
まとめ
少年事件は、単に「少年だから大目に見てあげる」制度ではありません。家庭裁判所による審理や保護処分など、成人の刑事事件とは異なる特別な手続きや理念に基づいて運用される、独自の制度です。そのような独自の制度であることから、実務上は複雑で判断が難しい局面も多くあります。
だからこそ、「警察から連絡があった」、「家庭裁判所に呼ばれたけどどう対応すればよいかわからない」などといった場合には、弁護士など専門家に相談することが極めて重要です
監修者
■藤本拓大(ふじもと たくひろ)
弁護士(大阪弁護士会)
弁護士法人リット法律事務所 共同代表
中央大学法学部卒業。司法試験予備試験に合格後、司法研修所(第71期)を修了。
2019年に裁判官に任官し、横浜地方裁判所(医療集中部)、松江地方裁判所(刑事・少年部)、東京地方裁判所(民事執行センター)にて勤務。
在任中、アメリカ・ヴァンダービルト大学ロースクールにて客員研究員としても活動。
2025年4月に弁護士登録し、現職。医療部での勤務経験も活かし、医療事件、介護事件等に注力している。