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【元裁判官が解説】「不貞・不倫の慰謝料はいくらもらえるの?」、「慰謝料の金額の算定には、どのような事情が考慮されるの? ~不貞慰謝料の考慮要素と慰謝料の額について~

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はじめに

配偶者の不貞・不倫行為が発覚した場合、慰謝料の請求を考えることも多いと思います。特に、不貞・不倫をきっかけに離婚に至った場合、慰謝料としてどの程度の金額を請求できるのかは、重要な問題です。

本稿では、慰謝料の法的性質、慰謝料を算出する考慮要素、慰謝料の額の相場などについて、元裁判官の視点から分かりやすく、詳しく解説します。

そもそも、不貞慰謝料とは?

不貞慰謝料は、不法行為に基づく損害賠償請求権の一種です。不貞行為により生じた精神的苦痛を金銭的に賠償することができます。離婚に至っていない場合にも、不貞慰謝料を請求することができます。

離婚を伴う場合の慰謝料には、不貞行為など離婚原因から生じる精神的苦痛に関する慰謝料と、離婚そのものに関する精神的苦痛に関する慰謝料があり、これらの慰謝料を請求することができます。

 離婚を伴う場合の方が、被った精神的苦痛も大きいということになりますので、慰謝料は高額になる傾向にあります。

不貞慰謝料に加え、養育費を請求することはできるのか

 配偶者の不貞行為が原因で離婚することになった場合、不貞慰謝料に加えて、養育費も請求できるのでしょうか。

上述の通り、不貞慰謝料は、配偶者の不貞行為によって生じた精神的苦痛に対する金銭的な賠償です。一方、養育費は、離婚後、未成年の子を監護・養育する親が、もう一方の親に対して、子の生活や教育に必要な費用を分担してもらうために請求するものです。

不貞慰謝料と養育費の性質と目的は異なるため、慰謝料を請求する中で養育費まで請求することはできませんが、慰謝料とは別に、養育費の請求をすることはできます。

慰謝料を請求するためにはどうすればよいのか

 不貞慰謝料を請求するには、不貞行為があったことを証明する必要があります。そこで、不貞行為があったことを示す証拠を収集することが重要になります。

以前のコラム(【元裁判官が解説】「どこからが不倫や浮気になる?」「風俗は不貞行為になるの?」~不貞慰謝料が認められる場合と証拠の収集方法について~)でも説明させていただいたとおり、同じ部屋に宿泊し一夜を共にしたことがわかる写真や映像等は、不貞行為の事実を強く裏付ける証拠となります。そのほか、不貞の事実を認める発言が記録されている録音テープ、不貞相手とのメールのやり取り、クレジットカードの利用明細書、普段利用しない場所のレシートなども証拠となり得ます)

ただし、人の家に入り込んで盗聴器を設置するなど、証拠が違法な方法や態様で収集された場合、証拠能力が否定される可能性があるので注意が必要です。

慰謝料は誰に対して請求できるのか

配偶者と不貞の相手方双方に対して、不貞慰謝料を請求することができます。

実務では、離婚する場合には、離婚の際に、配偶者に対して慰謝料も請求する場合がありますが、婚姻関係が継続している場合、不倫の相手方のみを訴える場合が圧倒的に多いです。

不貞慰謝料を算出する考慮要素

それでは、不貞慰謝料の額はどのように算出されるのでしょうか。 慰謝料の算出については、様々な事情が考慮されます。 考慮要素としては、大きく分けて以下の三つが挙げられます。夫婦関係、不貞行為の内容、そして不貞行為が夫婦に与えた影響です。

夫婦関係については、婚姻期間の長短、不貞行為前の夫婦関係が良好か、未成年の子の有無などが考慮されます。

不貞行為の内容については、不貞期間、不貞関係が継続しているか、不貞行為の回数、場所、時期、不貞行為につき積極的な役割を果たしていたか、不貞行為で妊娠にいたったかなどが考慮されます。

自らが職場の同僚を誘い、職場外で会うために車で迎えに行き、不貞行為に及んだケースなど、不貞行為につき積極的な役割を果たしていたという事情は、増額事由として考慮される傾向にあります。また、自宅マンション内での不貞行為や、懐妊中の不貞行為が、増額事由に該当するとされた裁判例があります。

不貞行為の影響については、不貞行為により別居、離婚に至ったかが考慮されます。

不貞行為の発覚後に別居に至った、離婚を決意するに至ったという事情は、増額事由にあたります。また、不貞行為の発覚後、相手方配偶者が精神疾患を患ったという事情が増額事由として認められた場合もあります。

項目考慮される事情
夫婦関係・婚姻期間の長短
・不貞発覚前の婚姻関係が良好であったか
・未成年の子の有無
不貞行為の内容・不貞期間(不貞関係が継続しているか)
・不貞行為の回数、場所、時期
・不貞行為に至った経緯等について積極性が認められるか
・不貞行為によって妊娠したか
不貞行為の影響・不貞行為により、別居、離婚に至ったか

不貞慰謝料は、いつまでに請求すればいい?

不貞慰謝料はいつまでも請求できるものではありません。

不貞慰謝料は、不法行為に基づく損害賠償請求権であり、民法724条1項により「損害及び加害者を知った時から3年間」行使しないときは時効によって消滅します。したがって、被害者が配偶者の不貞行為およびその相手方を知った時から3年以内に請求しなければ、時効により権利が消滅します。

そのため、配偶者の不貞行為を知った場合には、早めに弁護士に相談し、対処することが大切です。

不貞慰謝料の額の相場

慰謝料の額は、前述の考慮要素を総合的に考慮し、事案ごとに判断されることになりますが、裁判になった場合、100~200万円と判断されることが多いです。もっとも、悪質なケースについては、200万円以上とされるケースもあります。

探偵事務所の調査費用を請求することはできるか

不貞・不倫の証拠を集めるため、探偵事務所に尾行等の調査を依頼されるケースもありますが、これらの調査費用は高額になることも多いです。探偵事務所の調査費用は、慰謝料と同様、不倫相手に請求することができるのでしょうか。探偵事務所によるによる調査結果は、不貞行為の事実を証明する上で重要な証拠となることがあります。そのため、裁判では、探偵事務所による調査が必要と判断された事例では、調査費用まで損害として認めることもありますが、全額は認めてもらえないケースがほとんどです。したがって、少なくとも、探偵事務所による調査費用の一部は持ち出しとなってしまうといえます。

 事案によっては、探偵事務所による調査結果以外の証拠から、不倫を明らかにすることができる場合もあるので、不倫を疑った場合には、まずは弁護士に相談することが大切です。

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監修者

■藤本拓大(ふじもと たくひろ)
弁護士(大阪弁護士会)
弁護士法人リット法律事務所 共同代表

中央大学法学部卒業。司法試験予備試験に合格後、司法研修所(第71期)を修了。
2019年に裁判官に任官し、横浜地方裁判所(医療集中部)、松江地方裁判所(刑事・少年部)、東京地方裁判所(民事執行センター)にて勤務。
在任中、アメリカ・ヴァンダービルト大学ロースクールにて客員研究員としても活動。
2025年4月に弁護士登録し、現職。医療部での勤務経験も活かし、医療事件、介護事件等に注力している。

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