相続放棄のやってはいけない行動3選【弁護士解説】 ~借金だけを相続放棄できる?~
「親が亡くなった後、知らない借金が見つかった」
「相続したはずが、むしろ負担だけが残った」
このようなトラブルは、決して珍しいものではありません。
相続は「財産を受け取る制度」と理解されがちですが、実際にはそれほど単純なものではありません。
法律上、相続人は現金や不動産といったプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も含めてまとめて相続することになってしまいます(民法896条)。
そのため、場合によっては「相続しない」という選択、すなわち相続放棄が非常に重要な選択になります。相続放棄とは、被相続人である亡くなられた方の財産を一切相続しないという制度であり、受け取れる財産を借金などのマイナスの財産が上回っている場合に利用することで、相続による不利益を回避することができます。
しかし、この相続放棄には見落とされがちな落とし穴が存在し、誤った対応によって取り返しのつかない事態に至るケースも少なくありません。
1. 相続放棄で注意すべき3つの落とし穴
① 3か月という非常に短い期限
相続放棄は、家庭裁判所に対して、3か月以内に相続放棄することを述べる必要があります。ただ、その3か月のカウントダウンが始まるのは、民法上、被相続人が亡くなったことと、自分がその相続人であることを知ったときですので(民法では「自己のために相続があったことを知ったとき」と規定されます(民法915条))、多くの場合、親御さんが亡くなったことを知ったときからカウントダウンが始まります。
もっとも、
- 親と長年疎遠である
- 財産状況を全く把握していない
- 相続人関係が複雑である
といった事情があるにもかかわらず対応を先延ばしてしまうと、3か月の期限が過ぎてしまい、自分の意思に関係なく相続したことになってしまいます(これを単純承認といいます。)その結果、借金を負うことになるケースが少なくありません。
② 一度放棄すると原則撤回できない
また、相続放棄は、一度家庭裁判所に受け付けられると原則として撤回できません(民法919条)。
たとえば、「借金があると思って放棄したが、後から多額の預金が見つかった」という場合であっても、基本的には放棄を取り消すことはできません。
したがって、「よく分からないからとりあえず放棄する」という判断は極めて危険です。期限に余裕を持ったうえで財産状況を確認することが不可欠です。
③ 良かれと思ってした行動により相続が確定してしまう
最も多いのがこのパターンです。
次の行為は、被相続人の全ての財産を相続したものとみなされ、相続放棄ができなくなる可能性があります(民法921条各号)。
▼やってはいけないNG行動
- 故人の預金口座からの出金
- 遺品を売却・処分する
- 借金を少額であっても返済する
- 不動産や車の名義変更を進める
- 相続人全員で行われる遺産分割協議への参加
- 相続財産を消費する各種税金の支払い
- 被相続人の有していた債権を取り立てて収受
これらは一見すると整理や後始末のように見える行為ですが、法律上は相続を承認したと評価されるリスクがあります。一方で、相続財産や相続人などの調査、被相続人のための葬儀や墓石購入は処分行為に該当しません。
善意で行った行動が結果的に大きな不利益につながる点には特に注意が必要です。
2. よくある誤解
- 借金だけを放棄できる?
できません。
→相続放棄は、「全部を放棄」をするか、何もせずに「全部を相続」するかのどちらかだけです。
- 何もしなければ自動的に放棄になる?
なりません。
→放置した場合、全ての財産を相続したものと扱われます。
- 家庭裁判所に述べれば終わり?
それだけでは不十分です。
→債権者からの請求に対して相続放棄の主張や通知を適切に行う必要があります。
3. 見落とされがちな親族トラブル
相続放棄は各相続人が個別に行う手続です(民法939条)。
そのため、ある人が放棄すると、その分の負担が次順位の相続人へ移ります。
結果として、「そんな話は聞いていない」「借金を押し付けられた」といったトラブルや感情的な対立に発展するケースも少なくありません。実際に、令和6年度の司法統計によれば、家庭裁判所へ持ち込まれた遺産分割争いの件数は15,379件であり、ここ20年で約1.7倍になっています。
法律上は可能だとしても、人間関係という点では大きな問題を引き起こす可能性があるため、事前の情報共有も重要です。
4. 相続発生後に必ず確認すべき3つのポイント
相続が発生したら、速やかに次の事項を確認することが肝要です。
①被相続人の亡くなった日(3か月期限の起算点)
②相続人の範囲(誰が対象か)
③財産と負債の全体像
特に重要なのは「借金の有無」の調査です。金融機関などへの照会など、早期の情報収集がその後の判断を大きく左右します。
5. 弁護士に相談すべき理由
相続放棄は、単に書類を提出すれば終わる手続ではありません。
相続人・相続財産の調査、適切な手続選択(相続放棄か等)、債権者への対応、親族間の調整など、多岐にわたる煩雑なステップを踏む必要があります。
専門家に依頼することで、期限経過の防止、不適切な行動による望まない相続の回避、紛争の予防と対応といったメリットを受けられ、結果として大きな損失を防ぐことにつながります。
まとめ
相続放棄は簡単そうで非常に失敗しやすい手続です。
期限は3か月と極めて短い一方で、一度放棄すると原則やり直すことができません。さらに、不用意な行動で相続が確定してしまうこともあります。
これらの点を踏まえると、知らなかったでは済まされず、専門家と連携しながら最適な対応を取ることが不可欠といえます。
ご相談について
弁護士法人リット法律事務所では、相続放棄に関するご相談を多数取り扱っています。
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執筆者
弥永 隼典(やなが しゅんすけ) 弁護士
1999年神奈川県愛川町生まれ、育ちは福岡県北九州市。大学卒業後は神戸大学法科大学院に進学し、在学中に司法試験に合格。
2025年4月から大阪市内の法律事務所において約1年間勤務し、2026年5月よりリット法律事務所に参画。弁護士として、相続法務、不動産法務等に注力。
