不倫慰謝料は二重取りできない|例外ケースと双方に請求すべき理由を元裁判官が解説
同じ不倫について、双方に適正な慰謝料額の全額をそれぞれ請求すること自体は可能ですが、受け取れる合計額は適正な慰謝料額までです。
2人が任意に支払った結果、受け取った合計が裁判で認められる水準を上回ることはありますが、権利として二重に請求できるわけではありません。
とはいえ、誰にいくら請求すれば取り損ねずに済むのかを、ご自身だけで判断するのは難しいでしょう。
この記事では、二重取りができない理由と、受け取れる可能性があるケース、慰謝料の相場、取り損ねないためのポイントをお伝えします。
【この記事の結論】
同じ不倫について、配偶者と不倫相手のそれぞれに満額を請求する権利は認められません。2人は1つの損害について連帯して責任を負うため(民法719条)、請求できる合計額は適正な慰謝料額までです。裁判で認められる不貞慰謝料は100〜200万円程度が1つの目安です(大塚正之「不貞行為に関する裁判例の分析」日本加除出版・2022年)。ただし双方に請求すること自体はでき、支払える側から回収できる可能性は上がります。
不倫・慰謝料請求のお悩みは、弁護士法人リット法律事務所にご相談ください
法律トラブルは、早い段階で弁護士に相談するほど、取れる選択肢が広がります。
「弁護士に頼むべきかわからない」という段階でも、まずは状況をお聞かせください。
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不倫慰謝料は二重取りできる?|満額を2回は受け取れない

「適正な慰謝料額」が200万円である場合、配偶者へ200万円、不倫相手にも200万円の合計400万円を、権利として請求することはできません。
この記事でいう満額とは、同じ不倫について認められる慰謝料の総額のことで、請求書に書いた額でも示談で決めた額でもありません。
以下では、この総額のことを「適正な慰謝料額」と呼びます。
そもそも不倫相手に慰謝料を請求できるのは、不貞行為当時に夫婦関係が破綻しておらず、不倫相手がその事実を知っていたか、知らないことに過失がある場合です。
判断の基準になるのは不貞行為があった当時の夫婦関係なので、不貞行為よりも後に夫婦関係が破綻して離婚に至っていても、不貞行為の当時に夫婦関係が破綻していなければ請求できます。
どこからが不貞行為にあたるのかは、下記の記事で解説しています。
関連記事:【元裁判官が解説】「どこからが不倫や浮気になる?」「風俗は不貞行為になるの?」~不貞慰謝料が認められる場合と証拠の収集方法について~
不貞は2人による1つの不法行為であるため
不倫をした配偶者と不倫相手は、2人で1つの不法行為をおこなったものとして、賠償責任を連帯して負います(民法719条1項)。
損害が1つである以上、受け取れる合計額も「適正な慰謝料額」の範囲内であり、一方が全部又は一部を支払えば、その分だけもう一方の支払義務も軽減されます。
2人が連帯して責任を負うのは、不倫による損害の部分だけです。
配偶者だけがおこなったDVやモラハラによる損害はこれに含まれず、不倫相手が責任を負うことはありません。
配偶者と不倫相手の双方に請求すること自体はできる
請求そのものは両方に対して行うことができます。
どちらか一方に全額を請求してもよく、両方に請求したことで不当な請求とみなされることもありません。
制限されるのは、受け取れる合計額だけです。
そのため、先に成立した示談の清算条項などで制限されていなければ、適正な慰謝料額に達するまでは、もう一方に請求できます。
例えば適正な慰謝料額が200万円と判断されるケースで、不倫相手と80万円で示談したのであれば、残りの120万円を配偶者に請求できます。
ただし、示談書に清算条項(これ以上は請求しないと約束する条項)が入っている場合など、書き方によっては配偶者への請求まで制限されると読まれることがあります。
二重取りできなくても双方に請求する意味はある
二重取りができないなら片方に請求すれば足りる、とは限りません。
双方に請求する意味があるのは、次の3つの場面です。
- 一方に支払うお金がなくても、もう一方から回収できる
- 一方が支払いを拒んで交渉が長引いても、もう一方から先に回収できる
- 不倫相手だけに請求すると、離婚しない場合は、あとから配偶者が不倫相手へ支払うことになり、家計に残るお金が減ることがある
一方で、双方に請求すれば必ず有利になるわけではありません。
相手が2人になるうえ、先に受け取った金額は残りの額の計算に影響するため、もう一方との交渉や訴訟で、いくら受け取ったのかの説明や、示談書の提出を求められることがあります。
どちらに請求するかは、回収の見込みと手間を見比べて決めてください。
二重取りにあたらず慰謝料を受け取れる可能性があるケース

二重取りにあたらず受け取れる可能性があるのは、次の4つのケースです。
順に見ていきましょう。
裁判外で当事者間の合意がある場合
配偶者と不倫相手がそれぞれ任意に支払いに応じた結果、受け取る合計額が裁判で認められる水準を上回ることはあります。
ただしこれは、相手が納得して支払ったから結果としてそうなっただけで、二重に請求する権利が認められるわけではありません。
一方が支払ったことを知ったもう一方が、支払いを拒んだり、支払い済みの分を差し引くよう求めたりすることはよくあります。
受け取ったあとに返還を求められるかどうかも、示談書の内容や合意に至った経緯によって変わります。
不貞行為以外の事情が含まれる場合
配偶者にDVやモラハラなど、不倫とは別に責任を問われる行為があった場合、その分は不倫相手が関わっていない別の損害です。
2人が連帯して責任を負うのは不倫による損害の部分だけなので、不倫相手から受け取った慰謝料とは別に、配偶者へ請求できます。
離婚の条件をまとめるときは、配偶者に支払ってもらう慰謝料に何が含まれているのかを、書面で分けて記載しておきましょう。
不貞行為が原因で離婚する場合
不倫が原因で離婚した場合、配偶者に対しては、不貞行為そのものだけでなく、離婚に至ったことによる精神的な苦痛も含めて慰謝料を請求できます。
一方で、離婚したこと自体を理由とする慰謝料を不倫相手に請求できるのは、不倫相手が夫婦を離婚させようとして夫婦の関係に不当に干渉したといえる特別な事情がある場合に限られる、というのが最高裁の判断です(最高裁平成31年2月19日判決)。
そのため、不貞行為に対する慰謝料と離婚に対する慰謝料を分けて、不倫相手から二重に受け取るという理屈は通りません。
ただし、この判断が対象にしているのは、離婚したこと自体に対する慰謝料です。
不貞行為そのものに対する慰謝料を不倫相手に請求できる点は変わりません。
なお、不貞行為による損害の部分は2人が連帯して責任を負うので、その部分を配偶者と不倫相手から重ねて受け取ることはできません。
不倫相手が複数いる場合
配偶者が別々の相手と不貞行為をしていた場合、相手ごとに別の不貞行為として慰謝料を請求できる場合があります。
ただし、相手の人数分だけ金額が積み上がるわけではありません。
不貞の時期や内容によっては受けた精神的な苦痛が重なり、重なる部分は二重に足し合わされないからです。
すでに清算条項付きの示談が成立している相手には、同じ不倫を理由に重ねて請求することはできません。
不倫・慰謝料請求のお悩みは、弁護士法人リット法律事務所にご相談ください
法律トラブルは、早い段階で弁護士に相談するほど、取れる選択肢が広がります。
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不倫の慰謝料相場|二重取りできなくても満額を請求するために

不貞慰謝料として裁判で認められる額は、100〜200万円程度が1つの目安になります。
東京地方裁判所の裁判例を分析した書籍でも、この帯がもっとも多いとされています(大塚正之「不貞行為に関する裁判例の分析-慰謝料算定上の諸問題-」日本加除出版・2022年)。
離婚に至った場合は高くなりやすく、夫婦関係を続ける場合は数十万円〜100万円程度にとどまることが多くなります。
額を左右するのは、主に次の4点です。
- 結婚していた期間が長いほど高くなりやすい
- 未成年の子どもがいる場合は高くなりやすい
- 不貞の期間が長く、回数が多いほど高くなりやすい
- 不貞が原因で離婚に至った場合は高くなりやすい
実際の金額は、これらの事情を合わせてケースごとに判断されます。
適正な慰謝料額の見当がついていれば、一方から受け取ったあとにもう一方へいくら請求できるのかも計算できます。
ご自身のケースでいくらになりそうかは、下記の記事もあわせてご覧ください。
関連記事:【元裁判官が解説】「不貞・不倫の慰謝料はいくらもらえるの?」「慰謝料の金額の算定には、どのような事情が考慮されるの?」~不貞慰謝料の考慮要素と慰謝料の額について~
不倫慰謝料を取り損ねないためのポイント

受け取れる合計額が決まっている以上、取りこぼさない進め方が必要になります。
請求の順番、示談書、時効の3点を押さえておきましょう。
どちらに先に請求するかでそのあとの動き方が変わる
離婚せず夫婦関係を続けるなら、請求の中心は不倫相手になります。
配偶者から受け取っても同じ家計の中でお金が動くだけで、家計に残るお金は増えないためです。
離婚する場合には、配偶者と不倫相手の双方が実際の請求先になります。
財産分与や養育費といった離婚の条件と、不倫相手への慰謝料請求は分けて考えておくと、交渉の見通しが立てやすくなります。
どちらに先に請求すべきかは事情によって変わるので、迷う場合は弁護士に相談しましょう。
二重取り・求償の観点から示談書で確認すべき4つの条項
不倫相手だけと示談するなら、合意の前に、配偶者に対する求償の扱いを確かめておきましょう。
慰謝料を全額支払った不倫相手は、本来は配偶者が負担すべきだった分をあとから配偶者に請求できるため(求償)、離婚しない場合は家計に残るお金が減ります。
確認したいのは次の4点です。
- 慰謝料の金額と支払い方法(分割払いなら、支払いが滞ったときの取り決めはあるか)
- 不倫相手が配偶者への求償権を放棄する条項が入っているか
- 慰謝料の請求を免除する範囲
- 清算条項の範囲(これ以上請求しないと約束する範囲)
特に3つ目は、不倫相手だけを免除するのか、配偶者への請求も含めて免除するのかで結果が変わります。
一方を許しても、もう一方への請求権が自動的に消えるわけではありません。
ただし、もう一方についても請求しないつもりだったと認められる場合には、そちらへの請求もできなくなることがあります(最高裁平成10年9月10日判決)。
口頭で「もう責任は問わない」と伝えただけでは争いになりやすいので、範囲は書面に書き分けておきましょう。
なお、求償権を放棄する条項を入れても、必ず求償を防げるとは限りません。
示談書はご自身と不倫相手のあいだで交わす契約であり、求償される側の配偶者はその契約に加わっていないため、どこまで効力があるかは条項の書き方によって変わります。
求償権の放棄を求めると、その代わりに慰謝料の減額を求められることもあります。
このほか、二度と連絡や接触をしないと約束する条項を入れるか、公正証書にするかどうかも検討が必要なので、示談書を交わす前に弁護士に相談しましょう。
不倫の慰謝料請求には時効がある
不倫相手への慰謝料請求権は、不貞行為による損害と加害者を知った時から3年間行使しないと、時効により消滅します(民法724条)。
知らないまま時間が経った場合も、不貞行為の時から20年で請求できなくなります。
配偶者への請求は扱いが違い、夫婦の一方が他方に対して持つ権利については、婚姻が解消してから6か月が経つまでは時効が完成しません(民法159条)。
ただし、そのあいだも不倫相手に対する3年の時効は別に進んでいます。
いつから3年を数えるのかの判断が難しいケースもあるので、不倫が発覚してから時間が経っているなら早めに弁護士へ相談しましょう。
不倫慰謝料や二重取りに関するよくある質問

最後に、二重取りについてよくいただく質問にお答えします。
Q:不倫相手だけに全額を請求してもかまいませんか?
A:かまいません。
ただし全額を支払った不倫相手は、本来は配偶者が負担すべきだった分をあとから配偶者に請求できます(求償)。
離婚せず夫婦関係を続けるなら、この求償で家計の負担が戻ってくることがあるため、示談書で求償権の扱いを決めておきましょう。
Q:相手に支払うお金がない場合はどうなりますか?
A:判決や示談で金額が決まっても、相手に支払うお金がなければ現実には回収できません。
一括で支払えない相手とは、分割払いで合意する方法があります。
双方に請求しておけば、一方から回収できなくても、もう一方から回収できる可能性が残ります。
それでも回収しきれない場合はあるため、請求を始める前に見通しを立てておきましょう。
Q:両方から慰謝料を受け取りすぎてしまった場合はどうなりますか?
A:配偶者と不倫相手が互いの支払いを知らないままそれぞれ支払い、合計が適正な慰謝料額を超えた場合、払いすぎた分の返還を求められる可能性があります。
実際に返還が必要になるかは、示談書の内容や合意に至った経緯によって変わります。
もう一方がいくら支払ったのかを確かめたうえで、請求する額を決めましょう。
不倫慰謝料請求は弁護士法人リット法律事務所へご相談ください

同じ不倫について、配偶者と不倫相手から満額を2回受け取ることはできません。
受け取れるのは適正な慰謝料額までですが、双方に請求しておけば、支払える側から回収できる可能性は上がります。
不倫相手だけと示談するなら求償権の扱いを決めておくこと、3年の時効を過ぎないうちに動くことが、最終的に回収できる額を左右します。
弁護士法人リット法律事務所では、誰にいくら請求するかの見通しから、示談書の作成、訴訟までのご相談を承っています。
請求先や示談の条件に迷う段階でお問い合わせください。
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監修者
■藤本拓大(ふじもと たくひろ)
弁護士(大阪弁護士会)
弁護士法人リット法律事務所 共同代表
中央大学法学部卒業。司法試験予備試験に合格後、司法研修所(第71期)を修了。
2019年に裁判官に任官し、横浜・松江・東京の各裁判所で約6年間、民事・刑事・少年事件等を担当。
在任中、アメリカ・ヴァンダービルト大学ロースクールにて客員研究員としても活動。
2025年4月に弁護士登録し、現職。
元裁判官としての経験を活かし、不倫・不貞に関する慰謝料請求など、男女問題の案件を担当している。
