不倫の慰謝料が払えないときはどうする?放置するリスクと減額・分割交渉の進め方【元裁判官の弁護士が解説】
不倫の慰謝料が「払えない」という事情そのものは、法律上、支払義務をなくす理由にはなりません。
ただし実務の交渉では支払能力が考慮されることが多く、減額や分割払いで折り合いがつくケースは少なくありません。
最も避けたいのは、払えないまま連絡を断ってしまうことです。
この記事では、請求された側の立場から、放置した場合に起こることと、現実的な着地による解決を進めるための進め方を整理します。
【この記事の結論】
不倫の慰謝料は「払えない」という事情だけで、支払義務がなくなることはありません。ただし相手も、回収できなければ意味がありません。だからこそ交渉では支払能力が考慮され、減額や分割で着地するケースは少なくないのです。最も避けるべきは放置です。まずは期限内に「支払う意思はあるが、この金額・期日では難しい」と、記録の残る形で伝えてください。その上で、請求された金額が相場より高くないかを確かめましょう。
不倫の慰謝料が払えないときにまずやるべきこと

優先すべきなのは、支払方法を決めることではなく、期限内に何らかの反応を示して交渉を維持することです。
内容証明に書かれた期限は相手が一方的に設定したものですが、無反応のまま過ぎると「話し合いの意思がない」と判断され、訴訟に進みやすくなります。
金額の妥当性を判断できていなくても、「書面を受け取ったこと」「回答に時間がほしいこと」を、記録の残る形で伝えておいてください。
請求書を受け取った直後の対応は「不倫で慰謝料請求されたら?支払義務がないケースはある?」で解説しています。
「払えない」と伝えても不利にはならない
「お金がないと言えば誠意がないと思われるのでは」と心配される方がいますが、支払い能力がないことを正直に伝えたからといって、それだけで慰謝料が増える仕組みはありません。
請求する側の目的は、判決を取ることではなく実際に金銭を受け取ることです。
回収できない金額で合意しても相手に利益はないため、支払うことのできる範囲での着地を探る動機は双方にあるということができます。
伝え方としては、支払義務の有無と金額は確認中であること、提示された期日では対応が難しいこと、この2点を分けて伝えるのが基本です。
「払えない」がどのタイプかを見極める
同じ「払えない」でも、状況によって取るべき手段は変わります。
| タイプ | 状況 | 主な打ち手 |
|---|---|---|
| ① 一括は無理だが、分割なら可能 | 収入はあるが手元資金がない | 分割払いの交渉/頭金+分割の提案 |
| ② 金額そのものに納得できない | 相場より高い、事情が考慮されていない | 減額交渉/支払義務の有無の確認 |
| ③ 収入がなく、どの形でも難しい | 無職・病気・多額の借入がある | 大幅な減額交渉/債務整理の検討 |
②であれば、請求額を前提に資金繰りを考える必要はありません。
①や③でも、まず金額の妥当性を確認してから支払い方法を交渉するほうが、負担が軽くなる可能性があります。
不倫の慰謝料を払えないまま放置するとどうなる?

放置によって状況が良くなることはほとんどありません。
時間の経過とともに、負担が増える方向に進んでしまいます。
遅延損害金が上乗せされる
支払いが遅れると、慰謝料に加えて遅延損害金が発生します。
取り決めがなければ法定利率によります。
法定利率は3年ごとに見直されますが、2020年4月1日の改正以降、2026年4月1日からの第3期まで年3%で据え置かれています。
遅延損害金は不法行為時から生じるのが原則ですが、継続・反復した不貞行為の具体的な起算点は個別に確認が必要です。
例えば、200万円で3年が経過していれば、単純計算で18万円程度が上乗せされます。
訴訟を起こされ選べる着地点が狭くなる
請求側が、交渉が難航した際に取れる次の手段は訴訟です。
訴訟になると、弁護士費用の負担が生じるほか、解決までの期間も長くなる傾向にあります。
交渉段階であれば「早期に解決する代わりに減額する」という取引が成立しやすいのに対し、訴訟では、裁判所が金額を判断することになります。
なお、訴状を受け取ったまま答弁書も出さず期日にも出頭しないと、相手の主張がそのまま認められた判決が出るおそれがあります。
判決や公正証書があると給与や預金を差し押さえられる
強制執行をするには「債務名義」と呼ばれる公的な書面が必要です。
確定した判決のほか、仮執行宣言が付いた判決(控訴中でも執行できます)、仮執行宣言付きの支払督促、和解調書、調停調書、強制執行認諾文言付きの公正証書などが該当します(民事執行法22条)。
裏を返せば、この「債務名義」には当たらない内容証明郵便が届いただけの段階でいきなり給与を差し押さえられることはありません。
ただし財産を処分されるおそれがあると裁判所に認められれば、判決前でも預貯金などが「仮差押え」される可能性は残ります。
「債務名義」が成立すると、次の財産が差押えの対象になります。
- 給与:給料から税金と社会保険料を引いた額(通勤手当は含まない)の4分の1まで。この額が44万円を超えると、33万円を超えた分は全額が対象。ボーナスも同じ扱い
- 預貯金:差押禁止の枠がなく、請求額に達するまで残高から充てられます
- 不動産・自動車・生命保険の解約返戻金など
給与の差押えでは裁判所からの命令が勤務先に届くため、職場に事情を知られる可能性が高いのはこの段階です。
示談が成立すればお互いに第三者へ口外しない条項を入れられますが、対立が続いている間はそういった歯止めもありません。
払えないこと自体で逮捕されることはない
不倫(不貞行為)は民事上の不法行為であり、それ自体は犯罪ではありません。
支払えないという理由だけで逮捕されたり、前科がついたりすることはありません。
ただし「何をしても刑事責任を問われない」という意味ではありません。
判決などを受けたあとには、裁判所が財産を申告させる手続き(財産開示手続)があります。
この呼び出しに正当な理由なく応じなければ、6か月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金の対象になります。
差押えを逃れる目的で財産を隠す行為も、それ自体が犯罪です。
逃げようとした行動のほうが重い結果を招くことがあると理解しておく必要があります。
資金繰りを考える前に請求どおり払う義務があるか確認する

確認したいのは、請求されている金額を全額支払う義務が本当にあるのかという点です。
ここが変われば、用意すべき金額そのものが変わります。
慰謝料請求額が相場から上振れしていないか
金額は、夫婦関係がその後どうなったかで大きく変わります。
交際期間や回数、妊娠の有無などの個別事情でも上下します。
なお、次の金額は複数の法律事務所が公開している解説をもとにした目安です。
公的な統計はなく、事務所によって示す幅も違うため、「請求額が高すぎないか」を測るものさしとして使ってください。
| 夫婦のその後 | 金額の目安 |
|---|---|
| 離婚に至った | 100万〜300万円程度 |
| 別居した | 100万〜200万円程度 |
| 夫婦関係を継続している | 50万〜100万円程度(事案により150万円程度まで) |
考慮要素ごとの金額の考え方は「不貞慰謝料の考慮要素と慰謝料の額について」で解説しています。
請求書に500万円、1,000万円と書かれていることもありますが、交渉の出発点として高めに設定されているケースは珍しくありません。
もう一点、請求された側が見落としやすいポイントがあります。
上記は「不貞行為そのもの」に対する慰謝料です。
最高裁は、不倫相手が「離婚したこと自体」の慰謝料(離婚慰謝料)まで負うのは、特段の事情がある場合に限られると判断しています。
特段の事情とは、夫婦を離婚させようとして、その関係に不当に踏み込んだといえるような場合です(最高裁平成31年2月19日判決)。
「離婚することになった精神的苦痛」として高額が計上されている場合は、請求額の妥当性を確認する必要があります。
支払義務が否定されるまたは軽くなる可能性があるケース
支払義務が否定・軽くなる可能性があるケースをまとめました。
- 肉体関係がなかった:食事やメッセージのやり取りだけでは、不貞行為とは評価されないのが一般的
- 既婚者だと知らず、知らなかったことに落ち度もなかった:独身だと偽られていた場合など
- 交際開始時点で、すでに夫婦関係が破綻していた:長期の別居や離婚協議中だった場合
- 時効期間が経過している:相手が不倫の事実とあなたを知った時から3年、または不倫行為の時から20年が経過している場合(主張には援用の意思表示が必要)
- 配偶者からすでに全額を受け取っている:慰謝料は不倫した配偶者とあなたの共同責任であり、相手が受け取ることができる総額には上限がある
なお、相手が証拠を持っていなさそうだからと事実を否定する対応は慎重に判断してください。
後から証拠が出てくると、不誠実な対応と評価され、かえって金額が上がることがあります。
弁護士法人リット法律事務所では、慰謝料を請求された方のご相談をお受けしています。
金額の減額交渉から、相手方とのやり取りの代行、示談書の内容確認まで対応していますので、お困りの場合はぜひ一度ご相談ください。
どこまでが不貞行為にあたるかは「どこからが不倫や浮気になる?」で整理していますので、ぜひ併せてご覧ください。
「払えない」を理由に減額してもらえる?

結論としては、支払能力の低さは法律上の減額事由ではありませんが、交渉の場では現実的な材料として機能します。
資力がないことで支払義務は消えないが交渉では効く
慰謝料の額は、相手が受けた精神的苦痛の大きさをもとに判断されます。
「無職だから支払わなくてよい」「貯金がないから免除される」という決まりはありません。
一方、示談交渉の段階では事情が変わります。
強制執行をしても差し押さえる財産がなければ、相手が実際に手にできる金額はゼロに近くなるからです。
支払能力の資料を示したうえで現実的な金額を提示すると、「時間と費用をかけて争うより、今この金額で確実に受け取るほうがよい」という判断につながることがあります。
このとき、源泉徴収票や給与明細、預貯金通帳の写し、借入残高がわかる書面など、月々いくらなら支払えるのかを裏づける資料を用意しておくと交渉の説得力が変わります。
減額が通りやすくなるケース
そのほか、不倫慰謝料の減額要因になり得るケースをまとめました。
- 肉体関係の回数が少ない、交際期間が短い
- 既婚であることを積極的に隠されていた
- 誘われる立場だった、断りにくい関係性(上司と部下など)があった
- 発覚後に夫婦関係が修復され、離婚に至っていない
- 退職するなど、事実上の不利益をすでに受けている
- 請求額が相場から明らかに離れている
このような事情がある場合には、減額できる可能性があります。
求償権の放棄で減額交渉する
不倫の慰謝料は、不倫をした当事者2人が共同で負う責任です。
そのため、片方が本来の負担分を超えて払った場合、超えた分をもう一方に請求できます。
負担割合は、当事者間の合意や各人の関与などの個別事情によって異なります。
請求する側にとっては、受け取った慰謝料の一部が後から配偶者を通じて出ていくことになりかねません。
そこで、「求償権を放棄する代わりに減額してほしい」という交渉が成立することがあります。
ただしこれは権利ではなく、あくまで交渉材料です。
求償権と示談書の条項については「不倫慰謝料は二重取りできない」も併せてご確認ください。
分割払いを交渉するときの進め方と注意点

一括では無理でも分割なら支払える、という方は多いはずです。
ただし条件の詰め方を誤ると後から苦しくなります。
分割にできるかは相手の同意次第
慰謝料の支払いは一括が原則で、分割払いをする権利があるわけではなく、相手が同意して初めて成立します。
相手は途中で支払いが止まるリスクを負うため、「分割にしてほしい」と伝えるだけでなく、継続的に支払いを続けられる根拠を示すことが重要です。
次のような形にすると受け入れられやすくなります。
- 頭金を用意する
- 支払回数を長くしすぎない
- 支払日と方法を具体的に決める
ただし、分割払いに同意してもらうために、無理のある金額を提示することは避けましょう。
示談書に期限の利益喪失条項がある場合、定められた条件を満たすと残額を一括請求されることがあります。
示談書・公正証書で必ず確認したい条項
合意内容が、その後の負担を大きく左右します。
署名する前に次の点を確認してください。
| 条項 | 確認すべきポイント |
|---|---|
| 期限の利益喪失条項 | 「1回でも遅れたら残額を一括」となっていないか。「2回分以上滞ったとき」など猶予のある書き方に交渉できないか |
| 違約金・遅延損害金 | 別途高額な違約金が設定されていないか |
| 接触禁止条項 | 違反時の金額が過大でないか。偶然の接触まで違反になる書き方でないか |
| 清算条項 | 「本件に関し今後互いに一切の請求をしない」旨が入っているか |
| 守秘義務 | 勤務先や家族に口外しないことが双方の義務になっているか |
相手から「公正証書にしたい」と求められることもあります。
強制執行認諾文言が入った公正証書は、裁判をせずにそのまま差押えができる書面です。
支払いが滞った際に、別途裁判手続を経ずに給与や預金を押さえられる状態になるという意味を理解したうえで判断してください。
それでも不倫の慰謝料を払えないときの選択肢

分割払いを検討しても慰謝料を払えない場面もあるでしょう。
例えば、親族に用立ててもらい一括で解決できれば、減額交渉の材料にもなり、遅延損害金も止まります。
ただし親族に法律上の支払義務はありません(連帯保証人になっている場合を除きます)。
他にも返済が行き詰まっている場合、自己破産が選択肢になります。
破産法では「破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権」は免責されないと定められています。
ただし、ここでいう「悪意」は「わざとやった」という意味ではありません。
相手を苦しめてやろうという積極的な意図まで必要だと考えられています。
不貞慰謝料が免責されるかは、行為態様や害意の有無などによって個別に判断されますので、破産を考える段階で弁護士に確認してください。
慰謝料が払えないときにやってはいけない5つのこと

対応を誤ると、本来なら減額できたはずのケースでも不利になってしまうことがあります。
- 無視する・音信不通にする
話し合いの意思がないと判断されれば、相手は訴訟に進むしかありません。
逃げ切れる見込みは低く、その間も遅延損害金は増え続けます。
- 払える見込みのない金額で示談書にサインする
滞納すれば期限の利益を失い、残額の一括請求や差押えにつながります。
- 証拠を消す・相手と直接やり取りを続ける
削除しても相手側の端末に残っていることがほとんどで、証拠隠滅と受け取られれば悪質性を裏づける事情になります。
- 財産を隠す・家族名義に移す
詐害行為として取り消される可能性があるうえ、強制執行妨害として刑事罰の対象にもなり得ます。
- 一人で判断して即答する
相場より高くても、いったん合意すれば覆すのは困難です。
「すぐに返事ができない」と伝えること自体は失礼でも不誠実でもありません。
不倫の慰謝料が払えない場合によくある質問

最後に、慰謝料を請求された方から特に多い質問をまとめます。
Q:無職や専業主婦で収入がなくても払わなければいけませんか?
A. 収入がないこと自体は支払義務をなくす理由になりません。
ただし実際に回収できる財産がなければ相手も回収を強行しにくいため、交渉で大幅な減額や少額の分割にまとまるケースもあります。
放置せず、資力を示したうえで話し合うことをおすすめします。
Q:分割払いの途中で払えなくなったらどうなりますか?
A. 示談書に期限の利益喪失条項があると、残額を一括で請求される可能性があります。
強制執行認諾文言付きの公正証書を作成していれば、別途裁判手続を経ずに、そのまま差押えに進むこともあります。
滞納する前に支払条件の見直しを申し入れることが重要です。
Q:払わずに時効の完成を待つことはできますか?
A. 現実的ではありません。
内容証明郵便で請求(催告)を受けると、その時点から6か月間は時効が完成しません。
その間に訴訟を起こされれば手続きが終わるまで時効は完成せず、判決で権利が確定すれば時効期間は10年に延びます。
さらに、支払いを約束したり、一部でも支払ったりすると「承認」にあたり、時効の完成はリセットされて数え直しになります。
Q:相手が「払えないなら会社に言う」と言ってきました
A. 請求すること自体は正当な権利行使ですが、周囲に事実を広める行為は、その内容が真実であっても個別の事情によっては名誉毀損にあたる可能性があります。
また、金銭を支払わせる目的で「会社に言う」と告げる行為も、社会通念上許される限度を超えれば恐喝にあたり得ます。
やり取りは記録に残し、直接の対応が難しい場合は代理人を立てて窓口を一本化するのが有効です。
不倫の慰謝料が払えないときは弁護士にご相談ください
不倫の慰謝料は「払えない」という事情で支払義務が消えることはありません。
払えないからと放置して訴訟や差押えまで進んでしまえば、減額交渉をする機会も失われます。
まずは請求額が妥当か、そもそも全額を支払う義務があるかを確認してください。
そのうえで資力を示す資料をそろえて減額や分割を交渉し、示談書は期限の利益喪失条項と清算条項を確認してから署名する。
この順番を守るだけでも、最終的な負担は変わってきます。
ただ、金額が妥当かどうかは相場や裁判例を踏まえないと判断が難しい部分です。
弁護士法人リット法律事務所は離婚・男女問題を取扱分野とし、電話・メール・LINEから相談を受け付けています。
回答期限が迫っている方も、まずは状況をお聞かせください。
■藤本拓大(ふじもと たくひろ)
弁護士(大阪弁護士会)
弁護士法人リット法律事務所 共同代表
中央大学法学部卒業。司法試験予備試験に合格後、司法研修所(第71期)を修了。
2019年に裁判官に任官し、横浜・松江・東京の各裁判所で約6年間、民事・刑事・少年事件等を担当。
在任中、アメリカ・ヴァンダービルト大学ロースクールにて客員研究員としても活動。
2025年4月に弁護士登録し、現職。
元裁判官としての経験を活かし、不倫・不貞に関する慰謝料請求など、男女問題の案件を担当している。
